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JR東日本、英国で鉄道運行「1年間の通信簿」 日本が誇る「鉄道力」はどこまで浸透したのか

 2017年12月、オランダ国鉄系の鉄道会社アベリオと三井物産と共同で英国の鉄道運行事業に参入したJR東日本(東日本旅客鉄道)ですが、その後どうなったでしょうか。運営権獲得当初は、JR東日本のノウハウで慢性的な遅延が解消されるかもしれないなど日本流の運行が期待されたJR東日本の参入ですが、これまでの経緯を見る限りは、どうやらそのようにはなっていないようです。JR東日本が現地の運行システムを理解するため十分な時間をかけ、慎重に事業を進めているという感じです。

 以下、2018/12/25の東洋経済ONLINEからの引用になります。

英国で鉄道の運行事業に参入したJR東日本ら3社が今後ウェスト・ミッドランズ路線に投入する列車(写真:West Midland trains)

 EU(欧州連合)離脱問題に揺れる英国だが、ロンドンやバーミンガムのターミナル駅は通勤客、観光客、さらにクリスマスの買い物客でごった返す。構内を見渡すと、「より多くの座席、より多くの運行本数」「“運行会社オブザイヤー”に選ばれましたが、うぬぼれません」「200万ポンド(2.8億円)かけて当駅の券売機を改修しました」といった鉄道会社の広告であふれている。

 こういった鉄道広告は日本でも珍しくないが、英国の鉄道システムには日本との大きな違いがある。鉄道会社間の競争が日本とは比べものにならないほど厳しいという点だ。2017年12月、JR東日本(東日本旅客鉄道)は三井物産、オランダ国鉄系の鉄道会社アベリオと共同で英国の鉄道運行事業に参入、競争に自ら身を投じた。

 JR東日本はインドネシア・ジャカルタやタイ・バンコクで車両メンテナンスや乗務員教育に関する技術支援を行ってきたが、今回のように現地に人材を投入する形での運行事業への本格参入事例は初めてだ。

 1つの路線で複数の鉄道会社が運行

 日本同様、国鉄を分割民営化した英国では、かつて国鉄が運営していた路線の線路や架線などのインフラ管理を「ネットワークレール」という国営会社が一手に引き受けている。旅客列車の運行はエリア別に分割され、入札によって選ばれた運行会社が運行権を獲得する。需要の少ない路線には政府が補助金を出すので、閑散路線にもうま味はある。

 入札制にすることで、各社の提案を競わせ、補助金の削減や旅客輸送サービスの改善が図られるという利点がある。需要の多い区間は5~6社が乗り入れることもある。

 運行会社は英国、フランスなど欧州の交通事業者の出資により設立されていることが多い。音楽や航空で知られるヴァージングループや香港の鉄道会社・香港鉄路(MTR)も運行会社に出資する主要プレーヤーに名を連ねる。

 運行権は期限付きであり、期限が到来すれば改めて入札で運行会社を募る。期限が切れた後は別の鉄道会社にすげ替えられるかもしれないため、緊張感を持った経営が必要となる。

ロンドン・ノースウェスタン路線に投入される列車(写真:West Midland trains)

 JR東日本、三井物産、アベリオの3社連合が運行権を得たのは、ロンドンと英国第2の都市、バーミンガムを結ぶ「ロンドン・ノースウェスタン路線」と、バーミンガム近郊の路線網「ウェストミッドランズ路線」の2路線。バーミンガム・スノウヒル駅の管理業務なども含まれる。10年間にわたって両路線の運行を担ってきた、英仏大手交通事業者系のゴヴィア社から運行権を引き継ぎ、2026年3月まで運行を行う。

ウェストミッドランドトレインズが駅業務を行うバーミンガム・ノースヒル駅。駅ビルが併設され日本の駅を彷彿とさせる外観だ(記者撮影)

 この2つの路線の総延長は約900kmに及び、2016年度に3.38億ポンド(約480億円)の運賃収入をもたらしている。2路線を比較すると長距離利用者の多いノースウェスタン路線のほうが運賃収入は多いが、利用者数ではウェストミッドランズ路線のほうが多いようだ。

 実際の運行事業を担うのは3社が共同で設立したウェストミッドランズトレインズ(WM)社。出資比率はアベリオ70%、JR東日本と三井物産が各15%という構成だ。

 WMが運行会社に選ばれた理由は非公表だが、アベリオはスコットランドやドイツでも鉄道運行を行っており、親会社のオランダ国鉄も含め、鉄道経験は豊富という事情がまず考えられる。さらに、運行会社に出資する企業の顔ぶれが固定化してマンネリ化をおそれた行政サイドが、競争原理を維持すべく新規企業の参入を歓迎するという事情もあったようだ。JR東日本が参入できる余地は大いにあったわけだ。

 実際、WMが運行権を獲得したことを伝えるプレスリリースでも、JR東日本は東京において世界一混雑している駅を運営していると紹介している。その運行ノウハウの活用は現地でも期待されていた。

 日本流は導入されたのか

 それから1年。JR東日本の参入によって英国の旅客鉄道事業に何らかの変化はあったのだろうか。

 現在のところ、公約としている総額7億ポンド(994億円)の新車導入や既存車両の改修は手をつけた段階。これまでのところ、駅や列車に掲示されるロゴが変更された程度だ。運行会社が変わったことで、それまでの運行スタイルがガラリと変わったわけではない。

 JR東日本の国際事業を担当する最明仁常務は、「きちんと機能している現地のやり方を、すぐに日本流に変えるつもりはない」と説明する。確かに、運営会社が変わったといっても、経営陣が変わっただけで、2500人を超える従業員はほぼそのままだ。役員を別にすれば、JR東日本は本社部門に1名を送り込んでいるにすぎない。

 頭ごなしに日本流を押し付けても反発を買うだけだ。なぜ日本流にすべきなのか、現場で丁寧に説明して、根本思想から理解してもらう必要がある。それが定着するには長い時間を要するだろうが、まずは最初の一歩として、運行管理、車両メンテナンスなどの分野で日本流を導入できるか検討中という。

 日本の鉄道輸送システムの安全性と正確性は、世界的にも定評がある。ただ、その安全で正確な運行がどのようにもたらされているかまでは、しっかり認知されているとはいえない。たとえば、日本ではおなじみの信号や標識の状態を声に出し、指で指して確認する「指差喚呼」は、単なる目視による確認と比べ安全性は格段に高まるが、世界の鉄道業界ではほとんど普及していない。最明常務は「指差喚呼をぜひとも英国で浸透させたい」と語る。

多数の列車が乗り入れるバーミンガム最大のバーミンガム・ニューストリート駅。流線型のデザインが美しい(記者撮影)

 混雑の解消も日本の知見が期待されている課題の1つだ。ロンドンからミルトン・ケインズ(ロンドンから約80km離れたベッドタウン)に至る区間は4つの運行会社が競合するが、とりわけWMが運行する列車は夕刻時に混雑率187%に達し、2018年夏に運輸省が作成した混雑率ランキングで第5位にランクされた。

「今後、新車両投入、増発、車内レイアウトの工夫などによる輸送力向上で解決していきたい」と、JR東日本・英国フランチャイズグループリーダーの小島泰威氏は話す。2019年5月のダイヤ改正を皮切りに、2020年、2021年と段階的に輸送量を高めていく構えだ。

 英国の通勤列車の座席は日本のように横に長いロングシートではなく、向かい合って座るクロスシートが採用されていることが多い。通路が狭いからかもしれないが、混雑区間に実際に乗車してみると、ドア付近に多くの乗客が固まっていることに気づく。細かく車内アナウンスをして、奥に詰めてもらえれば、多少なりとも車内は快適になる。こういうちょっとしたことでも、今後、JR東日本のノウハウが役立つかもしれない。

 目指すはJR東日本が主導する運行

 アベリオ、JR東日本、三井物産の3社は、「サウスイースタン路線」の運行権獲得にも名乗りを上げている。ロンドンとアシュフォードを結ぶ、日立製作所が製造した高速列車が走っていることで日本でも知られている路線だ。利用者数も運賃収入もウェストミッドランズを大きく上回る。

 首尾よく運行権獲得に成功し、ここでも実績を重ねれば、JR東日本はもはや新参者ではない。現在は15%出資にとどまるが、将来、別の案件が出てくれば、今度は主導的な立場で英国の鉄道運行に携わる可能性があるかもしれない。

 そのためには「日本とは仕組みがまったく違う国で交渉できる力を身に付ける必要がある」と小島氏は話す。運行会社は運輸省、ネットワークレール、車両リース会社、車両保守会社などさまざまな立場の当事者と折衝を行い、ベストの解決策を探っていく。「欧州で豊富な経験を持つアベリオの仕事のやり方は、見ていてたいへん参考になる」(同)。

 活躍の場は英国だけとは限らない。外国企業にも運行業務の門戸を開いている国は世界中にある。MTRは英国の運営会社に出資しているほか、スウェーデンの都市間鉄道やメルボルンの都市鉄道の運行も行うなど、世界中で鉄道事業を行っている。規模でMTRを上回るJR東日本が同様に海外展開できないはずはない。

 「HITACHI」ブランドで英国を走る高速列車、アメリカ・ニューヨーク市の地下鉄車両でシェア首位の川崎重工業のように、日本の鉄道産業における海外展開例の多くは車両メーカーだった。鉄道会社ではJR東海(東海旅客鉄道)による台湾高速鉄道への技術コンサルティング、東京メトロ(東京地下鉄)によるベトナム・ホーチミンの都市鉄道プロジェクトへの運営支援、JR西日本によるブラジルの都市鉄道事業への出資などがにとどまる。日本の鉄道力を支える鉄道会社が世界における運行事業に乗り出さないのは、あまりにももったいない。

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