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最近読んだ本 – 外科の夜明け – 近代外科を開拓した人びと –

 就寝後、夜中に目が覚めることが屡々あります。
 そういう時、1時間から2時間程度、寝床に座り、本を読んで過ごします。

 最近読んだのは、ドイツの作家が書いた「外科の夜明け」「近代外科を開拓した人びと」という本です。いずれも講談社の文庫本で、「外科の夜明け」は昭和51年1月20日第5刷発行、「近代外科を開拓した人びと」は昭和48年1月15日第1刷発行とありますので、かれこれ40年以上も前に購入した本です。「近代外科を開拓した人びと」を読んでから、「外科の夜明け」を購入したことになります。訳者はご自身医師でもある塩月正雄氏です。

 作者のユルゲン・トールワルドは、1915年10月28日、ドイツのゾーリンゲンで生まれたそうです。
 ジャーナリストを志し、ケルンとハイデルベルクの大学で医学と歴史を専攻したということなので、作家としての素養に加え、医師としての素養もあったようです。
 戦前はドイツ空軍に関する評論、戦後も「ワイクセル河での発端」「未公開の事件」「亡ぼさんとする者は」「波乱の人生」など、第二次大戦にかかわる作品を執筆していたようです。1956年になり、今回あらためて読むことになった「外科の夜明け」「近代外科を開拓した人びと」など、医学史を取り扱った著作を出版することになったそうです。この2部作は世界18か国語に翻訳され、数百万部を売りつくし、国際的なベストセラーになったということです。

 「外科の夜明け」も「近代外科を開拓した人びと」も、アメリカのハートマンという青年外科医が、医学記者(今で言うところの医療ジャーナリストでしょうか)として、生涯を通じて外科医学の進歩における画期的な出来事を目撃するというスタイルで描かれています。トールワールドが調べた多くの学問的文献や記録を小説風に再現し、あたかも主人公のハートマンがその場に居合わせたかのような印象を醸し出しています。そのため読者にとっても、実際に当時の病院や手術の現場にいるような臨場感が感じられます。パスツールやコッホなど、歴史上有名な人物も登場し、なかなか興味深く読むことができます。舞台もアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスと目まぐるしく遷移し、読者はハートマンと一緒に1800年代のアメリカやヨーロッパを旅行しているような気分になります。
 
 「外科の夜明け」は、麻酔や防腐法のない1800年代前半の足や舌の切断、焼き鏝による消毒、腹部の手術、膀胱結石の手術、切断された鼻の再生手術、1840年代の麻酔の発見と実用化、防腐法のない時代の感染症による惨状、腎臓手術、帝王切開、1860年代から70年代にかけての感染源の発見と消毒法の確立、その後の胃腸外科、虫垂炎の手術、心臓の手術などを描いています。当時の外科医たちが、麻酔と防腐法という武器を獲得しながら、外科手術を伴う重篤な病気を徐々に克服していく様子が克明に綴られています。

 麻酔も防腐法もないことに加え、手術そのものも手探り状態で、手術中に患者が苦悶の声を上げ、死亡してしまうことも再三あったようです。「屠殺」という言葉がこの本のなかで使われていますが、描かれている情景を見る限りは、正しくその通りだったように思います。
 死亡の原因を調べるため、死亡した患者の解剖は日常的に行われていたようですが、解剖を終えた後に、死体を解剖した手を洗わずに患者の診察にあたるというようなことも日常的に行われていたため、患者を病原菌に感染させ、死亡させたというようなことは、日常茶飯事だったようです。なぜ自分の病院で多くの患者が感染症にかかって死亡するのか、長いあいだ原因がわからなかったというのですから驚きです。医師自身も解剖のとき、メスで手にかすり傷を負い、感染症にかかって死亡するようなこともあったようです。

 「近代外科を開拓した人びと」には、脳の領域の解明、甲状腺腫の手術、脳腫瘍の手術、胆石の手術、脊髄腫瘍の手術、喉頭がんの手術、鼠径部のヘルニアの手術、局所麻酔、肺の手術、胸部外科、角膜移植手術をめぐる1800年代の先駆者たちの苦闘が描かれています。「外科の夜明け」の続編というよりは、時代背景が重なるため、「外科の夜明け」の補足、拡大版といった赴きがあります。もちろん「近代外科を開拓した人びと」を単独で読んでも面白いと思います。
 局所麻酔の章では、後年精神分析で有名になったウィーンの若き医師時代のフロイドも登場し、局所麻酔としてのコカインの効果に気がついていながら、コカインの精神高揚の効果にばかり目を奪われ、局所麻酔発見の先駆者としての栄誉に服することができなかった逸話も描かれ、大変興味深く感じられます。

 現在、私たちは手術を受けても、余程のことがない限り、耐えられないような苦痛を感じたり、死亡するようなことはありません。それも外科の黎明期、外科の発展と引き換えに、麻酔も消毒もない手術で絶叫し、死亡した、夥しい数の人たちの犠牲によるものなのかもしれません。

 「外科の夜明け」も「近代外科を開拓した人びと」も、医師を目指す人にとっても、そうでない人にとっても、医学に関心のある方々にとっては、大変有意義な本かと思います。

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